Cheydinhalで戦士ギルドでの初仕事を無事に終えた頃には夜もとっぷり暮れていたので、宿屋で一泊した。
野宿続きだった私にとっては久々に気持ちのいい目覚めだった。
宿屋の女将に軽く挨拶して玄関をくぐろうとしたその時、女将はこう言った。
「私達の中で最も有名な市民は、あの有名な画家、Rythe Lythandasですね。 彼の奥さんと話してみれば、彼のアトリエを見学させてくれるかも知れませんよ。」
元々絵画を始めとした芸術の類にはそんなに強い興味を持っている訳でもないが、恥ずかしながら有名人と言うのにはちと弱い。
まあちょっと覗かせて貰うだけなら戦士ギルドの仕事にも対して影響しないだろうと踏んで、その画家の家を訪ねてみる事にした。
まだ朝だし客として赴くにはちょっと時間が早過ぎる気もしたが、玄関の鍵はもう外れていたので思い切ってドアをノックしてみた。
「私はTivela
Lythandasと申します。 普段ならお客様のおもてなしが出来なくて申し訳なく思うところですが、私は今とても困ってます。」
この奥さん自身相当な慌てぶりだった事もあって、当初話がよく見えなくて何の事だかさっぱり分からなかったが、話を伺ううちにだんだん状況が見えてきた。
どうやらこの奥さんの旦那さん、すなわちRythe画伯が目下、行方不明らしい。
画伯はこの国ではかなり有名な画家らしいが、前述のとおり私は絵画にあまり強く関心がないので申し訳ないがその辺ちょっと疎い。
どうやら風景画、それも大きな森林の絵が専門らしく、その絵はかなり写実的なのか「そよ風で絵の木の葉が揺れるようだ。」等の風評を得てるそうだ。
で問題の行方不明の件、画伯は作品に取り掛かる折、邪魔が入るのを嫌っていつもアトリエに鍵を掛けているそうだ。
だが二日前、いつもは一緒に摂る夕食の時にはアトリエから出てこなかったそうな。 そして寝る時までも。
時々徹夜で作品に取り組む事もあったそうなので奥さんもその時点ではあまり気にしてなかったそうだが、その次の夜になっても出てくる様子がないのでさすがに不審に思い、合鍵でドアを開けてみたところ、既に氏の姿がなかった・・・という事だそうな。
つまりは密室で起きた完全犯罪?
奥さんはいたく行方不明の旦那さんが気に掛かる様なので、さすがにこのまま放ってはおけないな。
操作の基本はまず現場から、というのをどこかで聞いた気がする・・・奥さんからアトリエの合鍵を預かったので、まずは現場調査から始めるとしよう。
問題のアトリエ内へ入れて頂く。
部屋は決して広くはなく、キャンバスには下書きの絵が。 部屋内にも数点作品が点在していた。
目下取り組んでいた真っ最中と思しき完成間近と思われる絵があったので、しばらく腕組みしつつ眺めていた・・・ふむ、確かにかなり写実的だなぁ、絵心に疎い私にでも何か感じるものがある、としばらく見とれていた。
あまりに素晴らしい出来なので、思わずその絵に手を伸ばしてみた。
すると突然目が眩むような感覚がこの身を包んだ・・・何だ!?
感覚が戻って次に目を明けてみた時、そこはもうあのアトリエではなかった・・・ここは森の中?
いつも歩き回っている森の中の様でもあるけど、でも何か違う・・・。
しばらく辺りを伺っていると、ふと人の気配を感じた。
慎重深く気配の方へ向かってみると・・・
DarkElfの男性が一人。 しばらく思案したが自分でも現状が良く把握出来ていないので、思い切って声を掛けてみる事にした。
「あんた、どこから来たんだ? 幻ではなさそうだ・・・外から? ああ、やっと誰かが来てくれた!」
何を隠そう、この人が行方不明と思われていたRythe Lythandasその人の様だ。
どうやら私と同じく、この人もこの絵から抜け出せずにいたらしい。
「あの盗賊さえいなければこんな事にはならなかったのに!!」
ん? 盗賊って?
「私がアトリエにいたとき、黒っぽい服を来たBosmer(WoodElf)がどこからともなく現れて、私に話し掛けて来ました。 驚いた私は助けを呼ぼうとしたんですが、その前にそいつは私を殴りつけ、私は気を失ってしまいました。」
・・・で、意識が戻った時、アトリエに鍵は掛かったままになってて、そして彼の絵筆もなくなっていた・・・と。 画伯は続けてこう言った。
「その代わり、私のキャンバスの横に何かがいました。 それはトロールの様に見え、そいつが私に襲い掛かって来ました。 Bosmerは恐らく私の絵の中に入り込んでしまい、その身を守る為に自分でトロールを描いたに違いありません!」
んんん? 絵の中に入った? 身を守る為にトロールを描いた? ・・・ってどゆこと?
怪訝そうにしてる私に気付いた様で、彼は「Truepaintの絵筆」なる絵筆の話を始めた。
「その絵筆は396年のArnensian戦争の頃、ある芸術が持っていた物です。 ある時彼は、戦災で両手を失ってしまいました。 しかし彼はそれでも、自分の才能を諦めなかったのです。」
「彼はDibella(この世界の9神(The Nine)の神々の一人、美の女神)の経験な崇拝者で、彼はもう一度創作が出来る様になりたいとDibellaに祈りました。 その女神は彼の祈りを聞き入れ、彼に自身の髪の毛で作った絵筆を与えたのです。
その男とは私の父の事です。 父は私にその絵筆を託しました。 私もいずれは自分の身内にそれを託すつもりです。
この絵筆は、キャンバスの中から絵を描く事が出来るのです。 つまり・・・この絵筆は絵の中への入り口を開き、絵を描く者はその絵の中へ入って等身大の絵を描くのです。
つまり・・・この絵筆で書いたものは、何でも本物になるのです。」
なにぃぃぃっ!? ぶっちゃけ「魔法の絵筆」ですか!?
という事でその「描かれたトロール」を退治し、この絵の中に逃げ込んだ盗人から絵筆を奪還しないと絵の外へ出られない、という事か。
ただ画伯の予想では、盗人は既に自分の描いたトロールに殺されているだろう、とも。
とにかくそのトロールを倒すのが先決か。
コレを使ってくれと画伯から手渡されたのはテレビン油(油絵の具の溶剤)。 んん? コレをどう使うんだろう?
ともかく私は、この「Rythe画伯の絵の中の世界」で「絵トロール」を倒さなくてはならなくなった・・・トロールというからには元が絵でもかなり強いんだろうな・・・冒険者としては駆け出しの自分にとっては少々荷が重過ぎるだろうか。
しかしやるしかない。 やらないと一生この絵の中から外へ出られない事になる。
しかしこの絵の中の世界、思っていたより広さがあるなぁ・・・とか考えつつ慎重にトロールを探していると、
いた! ってうおおおぉぉぉ!あいつめちゃくちゃ速いよっっっ!?
信じられないくらいの速さで一気に距離を詰められ、弓矢で戦うほど距離を取らせてもらえない。
というかこのトロール、いわゆる一般的なトロルと同様に強力なリジェネレート能力を持ち合わせているらしく、弓矢で与えるダメージくらいならみるみるうちに回復してる・・・これ、マジでかなりヤバイぞ。
私の苦戦してる様子を見るに見兼ねてか、「戦士じゃないから手伝えない」とトロール退治に関しては他人任せな装いを見せていたRythe画伯も加勢してくれていた・・・って言うか大健闘してくれてますが(汗
気迫の健闘も空しく、何度も気絶する画伯。
私も自分の治療で精一杯。 このままじゃジリ貧だ・・・どうする!?
「おりゃあっ!」
苦し紛れに撃った攻撃呪文「Flare」だったが、これが思いの他効果抜群だ、奴の弱点は「火」か!?
高台に逃れて、トロールを見下ろしつつFlareを連打。
トロールはそんなに知能が高くないらしく、こちらを目掛けてまっしぐらに進もうとするだけ、もちろん崖は上れない。
私はありったけの魔力を込めてFlareを連打した。
ふうぅぅぅ・・・つ、強!
弱点に気付かなかったらとてもじゃないけど勝ち目なかったな・・・。
さて、例の盗人はどこだ? と緩み切って辺りを探し回ってたら、
ちょ、待て待て待て待て待てっ! トロールって1匹じゃないのおおおっっ!?
もう必死で後退りしながらFlareを撃ち込み続ける。
きっついなぁ、手持ちの回復薬、全部飲み切っちゃったよ。
・・・とまあこんな感じで、都合5~6匹はトロールを相手にしただろうか。
最後には2匹同時に出てきて、「終わったぁ・・・」と諦め掛けたが、人間火事場の○○力ってのは本当にあるんだなぁと(苦笑
※ぶっちゃけ弱点に気付くまで2度程死ねましたよ(苦笑 じゃなかったら途中で諦めてたかも。
一頻りトロールを退治し終わり、更に捜索を続けてたら
問題の盗賊らしき男の遺体を発見。
懐を探って例の絵筆を取り上げ、Rythe画伯の下へ。
「良くぞやってくれました! 今から家の入り口を書きます。 完成したら先にその中へお入りください。 そうでないとここに取り残されてしまうでしょう。」
ええ、ええ。 もちろんそうしますとも。
そんなこんなで一件落着、めでたしめでたし、と。
画伯は、「あの絵筆の事は決して他言しないで下さい。 あのような物を私が使っている事が世間に知れ渡るのは、泥棒が家にやってくることよりも怖いのです。」と言いながら、絵から助け出した事のお礼も兼ねてか、自分が創作時に使っているエプロンをくれました。
彼のファンならたまらない逸品・・・なんだろうな(笑
ここを訪れたのは早朝だったのに、もうすっかり日も暮れてしまった。
また今夜泊まる部屋を探さないといけないな。
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