戦士ギルドの放ったらかしにされていた仕事を、怠け者の代わりに済ませた後に貰った仕事先はLeyawiinだった。
私はChorrolで早々に次の旅支度を整えてすぐに現場に向かう事にした。
街についていつもの様に一通り散策してみてだけの印象としては、また今までに立ち寄ってきた街のどことも違う・・・決して田舎町という感じではないが雰囲気としては非常にのどか。
そして帝都から遠く離れた地だからという事もあるかも知れないが、何となく自治色が強い印象だ。
帝都を取り巻くRumale湖から続く河が南に向かって下り、Bravilという街を経て河口の位置する、ここLeyawiinへと伸びている。
Argonianの故郷として知られるBlack Marshとの国境の近くでもあり、恐らくはその国と帝都との文化が入り混じってこの独特の雰囲気を生み出しているのだろう。
私は戦士ギルドの仕事に取り掛かる前に、例によって初めて訪れるこの街の散策をしていたのだが・・・なんだろう? この独特の嫌な臭いは。
この街に兼ねてからある臭いでないらしいのは、街の人にちょっと話し掛けた時点ですぐに知る事となった。
「先日Rosentia
Gallenusの家の近くを通った時、おかしな動物の音か何かが聞こえてきました。」
Rosentia Gallenusさんって?
「その女性の家の前を通ると奇妙な動物の鳴き声が聞こえるし、不潔な臭いも感じます。
多分彼女は病気持ちのペットか何かを飼っていますよ。
彼女のような裕福な女性がその資産を無秩序に浪費するのは理解し難い事です。」
・・・ふむ、お金持ちな女性が臭いペットを飼い始めたって事なんだろうか。
とりあえずその人の家を教えてもらったので尋ねてみる事にした。
ここがそのRosentia邸。
確かに大した資産家が住んでいそうな屋敷だ。
少し話を伺ってみようとドアを開けると、街中で感じた悪臭がよりいっそう強くなるのを感じた。
確かにこの家の中に臭いの元があるのは間違いなさそうだ。
中にはこの家の主と思しき豪華な身なりをした女性がおり、目が合うなり「お願い!助けてください!」と。
何が何だかさっぱり事情が掴めないが、彼女の背後に異様な気配を感じたのでそちらにふと目をやったところ、
む!? Scamp!?
これはScampという生物で、見習い程度の召還魔法使いでも短時間なら使役出来る魔物だ。
だが一人で一度に4匹、しかも消えてしまう事無くずっと出っぱなしってのもおかしな話なのだ。
私が呼び出すのは1回につき1匹、しかも20秒程度で掻き消えてしまうから臭いなどは気になった事はないのだが・・・これは結構強烈だ。
「バカなScampたちのせいで私は気が変になりそうよ!」
さっぱり事情はつかめないがこのご婦人が大層お困りな事だけはよく分かった。
何か私に出来そうな事があればと思い、詳しく事情を聞く事にした。
「ああ、ありがとう!
私にはこのDaedricの杖を買う事が何かのトラブルになるんじゃないか、と感じてはいました。
まさに今、私はその代金以上の代価を支払わされているのです。
Daedricの杖・・・確かにその婦人は背中に仰々しい杖を背負っていらっしゃる。
その杖を買った事とScampと何の因果関係が?
私はまずその杖の事から話を伺う事にした。
「数週間前、ある魔剣士がLeyawiinを通り掛かりました。
彼は今私が持っている杖を売りたがっていました。
私はDaedricの遺物の価値を知っていたので、夢中になってそれを彼から買いました。
彼はこれを、私が少し不審に感じるほどとても安く売ってくれました。
その後、刻印された紋様の中に小さな古代文字がある事に気付きました。
私は書籍を調べ、その言葉を翻訳してみました。
そしてこの杖を握り締めつつその言葉を口にした時、突然4匹のScampが現れたのです!
私はとんでもない事をしてしまった、と思いました。
しかし不思議な事に、Scampたちはただそこに立っているだけでした。
そして彼らは、私にいつまでも纏わりついてくる事に気がついたのです。
彼らがずっとついてくるせいで私は街にいられなくなってしまうと思い。この杖を捨てようと決意したのです。
・・・しかしどう説明すればいいのか分かりませんが、この杖は捨てることが出来ないのです。
この杖は明らかに呪われています!
それからずっとこの厄介な杖を押し付けられたままなのです。」
このご婦人、ご主人を亡くされて以来、豊富な財産を元手に古代文明の遺物収集を趣味としているそうだ。
なら尚更、その杖は彼女の所有欲を掻き立てるものだったのだろう。
それにしても捨てたくても捨てられない・・・か。
で、私にどうして欲しいのだろう?
彼女はその問いに答えた。
「魔術師ギルドに行って、私の親友でもあるAlvis Uvenimと話をしてみてください。
彼女はこの街で私が一番信頼している人です。
私はこの事があってすぐに彼女への伝言を伝えたのですがまだ返事がありません。
しかしもし私が直接彼女のところに行こうとするならScampたちもついてきてしまう・・・私のことに秘密がすべて他人にバレてしまいます。
Alvesならこの杖の呪いから私を解放する妙案を知っているかも知れません。
彼女にアドバイスを求めてみてください。
彼女は熟練の研究者です・・・何かしら有益な情報を与えてくれるでしょう。」
私は彼女の申し出のままに、Leyawiinの魔術師ギルドに属するAlvis Uvenimという人物を尋ねる事にした。
「気の毒なRosentia・・・彼女は何日も家に閉じこもったままなんだわ。
あなたもこの件に介入してしまったのね・・・正直に言うと、あなたからも臭いがします。
さて・・・ちょっと不快な話でもしましょうか。
今はただ静かに、現状の確認をして下さい。
もしRosentinaのところへ来た珍客の事が他の魔術師達に知られてしまったら・・・私はギルドから追い出されてしまうでしょう。」
私はこの件についての原因と考えられる、あの杖の事を彼女に尋ねてみた。
「正直な話、RosentinaがあのEverScampの杖にずっと取り付かれたままになる事が怖いのです。
これもSheogorathの『楽しみ』なのでしょう。
彼女の呪いを解くことが出来る唯一の方法は、誰かが進んであの杖を受け取る、という事だけです。 他の如何なる方法でもそれを捨てる事は出来ません。
一度呪いが発動してしまった以上、もはやあの杖を買ってくれる人は現れないでしょう。
後はあの杖にとって安息の地であるDarkfathom Caveに返すしかありません。」
Sheogorath? Darkfathom Cave?
「あの洞窟の中にはSheogorathの神殿があるという噂です。
そこなら杖の呪いと、纏わりつくScamp達を解き放つ事が出来るでしょう。」
Alvesは続けてこう言った。
「後、あの杖を持った者は動きが通常より遥かに遅くなってしまう事も知りました。
・・・きっとあの杖を作った物が考えた、更なる嫌がらせなのでしょう。」
Sheogorathとは確か、Dummerとも呼ばれるDarkElf達が信仰する神々の中でも特に有力とされる16神のひとり・・・だったか。
外見は愉快に笑う爺さん、『狂気』を司る、とされてるとか。
・・・そういう意味ではまさにあの杖はSheogorathが如何にも喜びそうな、イカれたジョークめいた呪いを仕込まれてる、と言えそうだ。
私があの杖とSheogorathに関して思いをめぐらせていて気を使ってくれていたのか、Alvesはしばらく時間を置いた後に、
「すぐにこの情報をRosentiaに教えてあげて下さい。
そして出来る事なら彼女を助けてあげてください。
彼女はとても悩んでいると思います・・・可哀想に。」
私は彼女を助ける事を了承し、魔術師ギルドを後にした。
別れ際にAlvesはScamp達について、
「彼らを殺そうとしないで下さい。 もし殺したとしてもすぐに別のものが現れる事でしょう・・・無限に。 酷い呪いですよね。
Sheogorathは、確かにのろいについてのユーモアのセンスはあると言えるでしょうね。」
あんな人の不幸をせせら笑うためにあるかの様な杖は存在しちゃいかんでしょう。
後は当のRosentiaがあの杖を捨てる決意をもてるかどうか。
私はRosentia邸へ戻り、彼女にAlvesに教わった事を一通り説明した。
すると彼女は、
「ああ、お願いします。 この杖をDarkfathom Caveへ持って行ってください!
そしてScamp達から私を解放してください!
私ではとても戦えませんから・・・あの洞窟の中の神殿を、何が守っているかはご存知ですか?
しかもあの洞窟が如何に汚染されているか知っていますか?
それらは私がまとっている物全てを破壊してしまう事でしょう。」
・・・ふむ、何か凶悪な生物が神殿を守ってるって事だろうか。
しかもこの杖を持って行く以上は自分の動きも鈍くなる・・・4匹の消えないScampのおまけ付で。
「私の為に行って下さるなら、何年か前に私が手に入れた骨董品の中から、高価な指輪を差し上げます。
どうかよろしくお願いします。」
気をつけて、の言葉を沿えて、彼女は私にその杖を手渡した。
それを預かった瞬間、体がグッと重くなるのを感じた。
そしてあのScamp達が婦人から離れ、私のもとに近寄って来たのだった。
それは何とも表現し難い不快感だった。
そもそも狂気を司る神様のイカれたジョークにつき合わされてる事自体が既に不愉快だった。
が、こうでもしないと目の前のご婦人は一生この不愉快を背負っていかなくてはならないのだ。
重い足を引きずる様に進み、私はようやくSheogorathの神殿があるというDarkfathom Caveの入り口まで辿り着いた。
普段と違い軽やかな立ち回りなど決して期待出来ない自分の体を恨めしく思いながら、私は召還と攻撃の魔法を用意してCaveに踏み込んだ。
中はそこそこにひろく、出くわす生き物と言えば
Scamp、そして初めて目にするような異形の生物達だった。
やたら痛かったりやたら熱かったりと、一戦一戦が文字通り命懸けだった。
どうにかこうにか歩を進め、ようやく辿り着いた最深部に目的の神殿はあった。
そこを守る怪物たちも何とか倒した。
これでようやくこの杖を手放す事が出来る。
聞いていた通りに陽気に笑う爺さん・・・Sheogorathの像の前に設置された祭壇の上にそっと呪われた杖を置いた。
すると、今まで付きまとっていたScamp達は私の元を離れ、祭壇の周りを囲んだ・・・目的は果たされた様だ。
私は無事に以前の様な軽やかさを取り戻した足取りで、そそくさと神殿を後にしたのだった。
早速Rosentia婦人に、無事に杖を奉納してきた事を伝えたところ、私の無事と呪いが解かれた事を喜び、そして約束の通りにお礼として指輪をくれた。
何と防御と刀剣のスキル値アップ効果付の代物だった。
剣技を磨きたい私にはとてもありがたい逸品だ。
私も素晴らしい物を頂いた事を彼女に感謝し、大きな邸宅を後にした。
Whom Gods Annoy -終わり-
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