・・・ここはどこだ?
薄暗く、そして一面真っ赤な風景。 ここは家の中?
側に一人の男性がいることに気付いた。
「どうも迷ったみたいだ。 馴染み深い場所のような気もするんだが。
どうやってここまで来たのか思い出せない。 なあ、助けてくれないか?」
この男がHenantierその人。
ここはあなたの夢の世界よ、と答えた。 Kud-Eiからの受け売りだが。
「ここはあまりに変だ。 夢の世界とか言ったな? むしろ悪夢だ。 こんなところは嫌だ。 ここには居たくない。
どこかに出口があるに違いない。 ここを探検したいのだが、まるでそのための勇気を失ってしまったようなんだ。
どうして私はこんなにも不注意なんだ? いったい何があった?
何かを失ってしまった事は気付いている。 ああ、そうだ。
こんな奇妙な場所で私はどれだけの物をなくしたのだ。 頼むから助けてくれないか?」
・・・訳の分からん事をごちゃごちゃと。
あんたの彼女から、あんたを夢の中から助けてくれ、と言われてここまで来てるのよ、と彼に答え、身の回りを見回した時にふと気付いた・・・私、例のアミュレット以外何も身に付けてない!
自分の事ばかり言わずに何かツッコミがあるだろ! 目の前に見知らぬ女が裸でいるんだから!
ここへ来て、ようやく夢の世界に入り込む前にKud-Eiが話した事の意味が分かった。
『あなたの思考と技能、特技は夢の中でも使える・・・異世界へ飛び込む様なものだと思ってちょうだい。
そこにはあなたの精神しか入る事を許されない。』
何一つ身に付けていない事を恥ずかしがっていても悔やんでいても状況は何も変わらない。
私は諦め気味に覚悟を決めた。
今いるのは「夢の中」のHenantierの家の様だ。 かなり荒れ模様ではあるが。
そこには4つの「試練」へと続く扉があった。 それぞれには
・Test of Patience(忍耐の試練)
・Test of
Perception(知覚の試練)
・Test of Courage(勇気の試練)
・Test of Resolve(決心の試練)
と名前が付けられている。
これも考えていても始まらない。
一番近くにあったのが『忍耐』だったのでまずはそこへ入ってみた。
中は一本の石畳の道があり、
目の前には何かを納める器があった。
中にはこの様な意味不明な紙切れが・・・さっぱり意味が分からない。
少し奥へ進む・・・かなり暗いので足元に道があるのかどうかを確かめつつ進むと、
目の前にスイッチパネルが並べられた区画があった。
試行錯誤を繰り返し、ようやくあの紙切れの意味を理解した。
スイッチパネルは現実と同様に、ダンジョン内の罠作動スイッチだ。
上手く抜ければスイッチを作動させずに済む。
こういうのが小、中、大と3種類あり、それを無事に抜けた先に、
これまた奇妙なモニュメントを発見。
その上の祭られた珠は『Element of Patience(忍耐のエレメント)』と名付けられていた。
それを手に取ると、
さっきの家に戻って来た。
・・・どうやらこのElementを4種集めれば良い様だ。
方針さえ分かれば後はこなすだけ。
続いて『Test of Perception(知覚の試練)』の扉を開けた。
今度はさっきの家と同じ様な真っ赤なところだった。
やはりさっきと同じく入れ物があり、中には松明が1本入っているのみ。
通路は一本道のようで、遠くにはこれまたさっきと同じくElementを祭っているであろう台が見えた。
この通路、薄暗くて足元も悪い。 しかも至るところに落石、ギロチン、破壊魔法などなど、多種多様な罠が仕掛けられていた。
・・・なるほど、それで『知覚』の試練って事? 危険を察知して回避しろと。
道理と仕掛けが分かってしまえば後は簡単だった。
『Element of Perception』を取り、次の『Test of Courage(勇気の試練)』へ進む・・・のだが、ここで家へ戻ってきたとき、クローゼットが目に付いた。
中を開けてみると、防具の類は一切なかったが幾つかの服を発見。 あるならあるって言ってくれ!
一人ごちながらとりあえずそれを着込んだ。 素っ裸でいるよりはよっぽどましだ。
今度はまた真っ暗。 目の前の器には水中呼吸の薬が1本。 そして地下水路。
・・・真っ当に考えれば「飲んで潜れ」って事だろうな。
ここは『勇気』の試練・・・先にあるものが分からなくても勇気を出せ、と?
何にしても行くしかない、私は覚悟を決めて薬を一気に飲み干し、水の中へ入った。
水路はすぐには終わらなかった。 薬の効果時間を気にしつつどんどん先へ進む。
するとその奥にもう一つ器を発見、中にはまた水中呼吸の薬が入っていた・・・まだ水路が続くって事か。
と考えてるうちに1本目の薬の効果が切れてしまった。
慌てて今取った2本目を飲み、先を急ぐ。
水路の一番奥に扉を発見、急いでそれを開けると、
あっけない程簡単にElementの台を見つけた。
さっとそれを取って最後の試練に向かった。
ここは『Test of Resolve(決心の試練)』・・・目の前には鉄格子へ続く一本の通路と、今までと同じく器が目の前にあった。
器には、重装と軽装の鎧が1組ずつと、魔力付与された杖、剣、大ハンマーが入っていた。
私はこの通路に見覚えがある・・・これはアリーナ(闘技場)だ。
この状況なら、私はアリーナで何者かと戦う事になるのだろう。
私は使い慣れた重装鎧と、雷の魔力の付与された大ハンマーを手にアリーナへ向かった。
中へ入ると、戦うべき相手が出てきた
・・・ミノタウロスだった。 しかも2匹!
ミノはオーガの様に力が強く、体も強靭だ。 しかも多少の攻撃魔法を使う。
しかも私は自分の元々持っていた装備と共に、魔法も失っていたのだった。
つまり自分には回復する術がないのだ。
ミノ2匹を相手に回復なし、という厳しい条件の戦い。
一匹を盾にしてもう1匹のミノの魔法を防ぎ、後は雷ハンマーで削るのみ!
かなりの強敵ではあったが、何とか2匹のミノを撃退。
と同時に降りてきた、本来のアリーナには存在しない階段を駆け上がると、
Elementの台がそこにあった。
私はElementを掴み取り、Henantierの元へ戻った。
「君がどうやってやり遂げたのかは分からないが、ありがとう。
さあ、夢から醒めて現実の世界に戻ろう、さらばだ。」
ふと目覚めた時、既にそこはいつもの私の世界だった。
「現実であんたに会えるとは嬉しいよ。 悪夢から救ってくれた事、感謝します。」
ああ・・・良かった、悪夢から抜け出す事が出来た、とほっとした時に気付いた。
また裸!? 鎧着たまま寝たはずなのに!! 装備類は持ったままなのに・・・何で!!?
とにかく慌ててHenantierを部屋から叩き出し、急いで鎧を着込んで部屋を出た。
Henantierは1階で私を待っていた。
「感謝の言葉だけでは足りないな、あんたが見せてくれた勇気にお礼をさせて欲しいんだ。
お金じゃないのは申し訳ないが、受け取ってくれ。 きっと旅の助けになる。」
とたくさんの呪文書をくれた。 1回こっきりの使い捨て品・・・正直あんまりありがたくはない・・・けど感謝の印というんならありがたく受け取らせてもらおう。
「Henantierは戻り、これで全ては元通り」
とKed-Eiも彼が悪夢から醒めた事を喜んだ。
こうして無事に人騒がせな魔術師ギルドのメンバーの悪夢騒ぎは人々に知れ渡る事無く治まったのだった。
Through A Nightmare, Darkly(後編) -終わり-
コメントする
※ コメントは認証されるまで公開されません。ご了承くださいませ。