戦士ギルドで契約した次の仕事を遂行する為に街を出ようと支度している時、街中でChorrol伯爵夫人が何かお困りの様子だと言う噂を耳にした・・・何でも、何か大切なものを盗まれたとか何とか。
確か伯爵夫人とはいえ、現在は伯爵は既に没されていて、実質の領主はその夫人だったはず。
そう言えばChorrolは帝都の監獄を抜け出して初めて立ち寄った街だった・・・その割には一度もお城には足を運んだ事がない。
お城の見物も兼ねて伯爵夫人に会えるものなら会ってみようか。
元来持ち合わせている強い好奇心に抗えず、私はChorrol城の城門を潜った。
「貴方に会えて嬉しく思います。 私はChorrolの伯爵夫人Valgaです。
申し訳ないのですが、今はさる調査の最中で、貴方と会話を楽しむ時間がありません。」
差し支えなければお聞かせ願えませんか?と尋ねてみた。
私が力になれる事なら・・・。
「貴方は信用に値する方の様ですね。 私を助けて頂けるかしら?」
喜んで、と笑顔で答えると、伯爵夫人は語り始められた。
「何者かが私にとってとても大切な家宝を盗んだ様なのです。
貴方に盗まれた絵画を取り戻すのを手伝って頂きたいのですが。」
盗まれた絵画?
「その絵は亡き夫、Balga伯爵の肖像です。 私の寝室においてあったところを盗まれたのです。
絵を発見し、罪人を正義の名の基に連行してきて頂けた時には、私は報酬で報いましょう。
あの絵の他には、我が夫を思い出させる品はもう残ってはいないのです。
私は、その命のこもってるはずもない絵の具とキャンバスが私に話し掛けてきてくれるのではないか、という空しい希望を抱いて幾夜も孤独な夜を過ごして来ました。」
ふむ・・・旦那様の絵、このご夫人にとっては旦那様そのものくらいの物らしい。
それにしても泥棒捜索・・・か。
いつもみたいな腕っ節と魔力で大暴れで解決出来る様なもんじゃないだろうけど、やれるだけやってみますか。
はい、及ばずながらご助力致します、とお答えしたところ、
「大変結構。 これから手掛かりを集めて頂く事になります。
しかし無実の人間を告発する事のなきよう警告しておきます。
さもなくば、貴方は私の不興を得る事になるでしょう。」
なるほど・・・証拠は入念に押さえて確固たる確証を持って犯人を検挙せよ、と。
「これらの鍵があれば、城内の立ち入り規制された区画にも出入りする事が出来るでしょう。」
と鍵も貸与された。 ますます探偵ばり。
「まずは城に住まう者と話をする事です。
知り得る事を全て知ったならおのずと真実は見えてくるでしょう。
ChanelとOrgnolfという者もPrivate Quartersに住んでいます。
屋外に出る事を禁じているのですぐに見つかるはずです。
衛兵の長であるBittneldにも話を聞いてみる方が良いかもしれません。
彼は街をパトロールしているか、兵舎にいます。
最後に、私の執事であるOrok
gro-GhothもPrivate Quatersに住んでいます。
彼が城内にいなければ、Notrhern
Goodsで食料品の買出しをしているかも知れません。」
最後に絵が盗まれた時の状況など・・・。
「絵が盗まれた時、私は外出していました。
しかし部屋には鍵を掛けていました。
部屋に入る事が出来、そのとき所在の分からなかった者は我が助言者である魔術師のChanelと、ポーターのOrgnolfの二人だけです。
衛兵隊長のBittneld、執事のOrok gro-Ghothと、伝令のLeythe
Wavrickに話を聞くのを忘れないで下さい。」
容疑者は2名・・・か。
結果についてはしばしお待ちを、と伯爵夫人に告げ、私は早速調査を開始した。
まずはほぼ常に夫人のすぐそばに控えている、伝令係のLaythe
Wavrick氏から聞き込み。
「ここだけの話だが、Orgnolfの様子がいつもと少し違う。
彼のアルコール依存症は最近ひどくなっている。
彼はスピリッツ酒を買うために他の者に金を無心していた。
ポーターの賃金程度では彼の悪癖を満たすには十分でないに違いない。」
・・・つまり容疑者のうちの一人であるOrgnolfは酒欲しさに絵を盗み、それを売り捌いた金が必要だと感じていたとすれば動機はある事になる。
続いて他の人からも聴取。
彼女がChanel。 夫人の助言者であり、魔術師。
目下アリバイがない事になっているので容疑者のうちの一人。
「こんにちは。 何か調べてらっしゃるそうですね。」
ええ、例の伯爵夫人の盗まれた絵について。
「あの絵はValga伯爵の肖像でした。
あの絵はとても伯爵の姿を写し取ったとは言えない出来です。」
む?
「彼の気高さと優しさをキャンバスの上に表現する事は至難の業なのです・・・これ以外に私があなたにお教え出来る事はありません。」
ふむ・・・盗むべき価値のない物・・・って意味にも取れる・・・。
でもその肖像画が、本物の伯爵と似ているかそうでないかは、一枚の絵画としての値打ちの高い低いとは必ずしも結びつかないだろう・・・・。
そして伯爵夫人は、その従者の一人が「似ていない」と評価するその絵を、伯爵の分身の様に大事にしていた訳だし。
似ていない絵に興味がないと見え、また金銭的価値についても特に興味を示すところは見受けられなかったChanelには動機が伺えなかった・・・にしても何か引っ掛かる・・・何だろう?
彼女は、盗まれた絵の調査の為に私が伯爵夫人に雇われた事は既に知っていた様だった。
聞き込みにも快く応じてくれたのだった。
「絵が盗まれた夜、私は星を観察する為に城の中庭にいました。
それからしばらくして、大広間から食堂へ向かいました。
それから寝るまでの間、そこで一人ワインを呑みながら星図を学んでいました。
その後まっすぐ自室に戻り、床につきました。」
なるほど・・・分かりました、ご協力ありがとう。
続いてポーターのOrgnolfにも話を聞いてみた。
「伯爵夫人は絵を見つけるためにお前を雇ったってか。
ここで俺をぽかんと見ているような奴に見つけられるとは思えんな。」
酒焼けしてる・・・確かに根っからの酒呑みっぽいな。
それにしてもずいぶんな言われよう。 聞き込みについてもかなり非協力的だった。
ただ、この男から見た、盗まれた絵の評価については
「あれは立派な方の見事な肖像だった。」
Chanelのそれとは正反対だった。
酒買いたさの金銭的価値の観点から見ての評価・・・なのだろうか?
そもそも絵の価値が分かりそうな人間には見えないけど。
続いて彼のアリバイ・・・絵の盗まれた当日の行動について聞いてみた。
「盗みがあった夜、わしは大広間でBravilから配送に来てた少年と言い合いをしてたよ。
あの夜の大雨で、その子の馬が足を滑らせて摘んでいた荷物を地面に落としちまったんだ。
それで瓶がほとんど割れちまったんだ。
そいつは必死に、自分の責任じゃないと言い張ったが、わしはそいつを首にしたのさ。
その後は、自分の部屋でずっと過ごしたよ、読み物をしてな。」
続いて執事のOrok gro-Ghoth。
「ううむ・・・その晩はChanelとOrgnolfの姿を全く見掛けませんでした。
とは申しましても私はその夜、ほとんど自分の部屋から出る事はありませんでした。
一晩中雨が降っておりましたので、散歩にもいけなかったのです。
ChanelとOrgnolfの関する限り、おかしな点には気付きませんでした・・・いや、そういえばOrgnolfに少々気になる事がありました。
先日、彼が西の塔の上層階で隠れて酒を呑んでいるのを見つけたのです。
私は彼に、止めなければ伯爵夫人に言いつけるぞ、と言ったところ、彼は不平を漏らしながらも承諾しました。
それ以降は特に私を困らせるような事はありませんが・・・。」
彼はChorrolの衛兵隊長Bittneld。
「その夜は城にいませんでした。 街を巡回していましたので。
Chanelは最近何かおかしい。 西の塔で長時間過ごしている様です。
彼女にその事を話してみたら、『呪文の研究に熱中している』と答えました。
その時も私も納得したんだが。」
・・・これで一通り、聞き込みについては済んだ。
次の段階は現場検証と推理となる。
Canvas the
Castle
(前編)-終わり-
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