Where Spilits Have Lease (前編)


「手頃な値段で良い物件がある。」

Anvilの街中でそんな話を聞いた。

家・・・か。
もう持ち歩ける荷物も目いっぱいになって来てるし、洞窟や戦士ギルドのタコ部屋でしか寝られないというのもいささか寂しい物を感じるようになって来た。

そろそろ家屋敷の一つも持っても良い頃か。
幸い今までこなしてきた仕事の報酬でそこそこの貯金は出来ている。



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これがその物件らしい。 立派な屋敷じゃないの。
・・・よーし、決めた! これ買っちゃおう!

私はその物件の持ち主を訪ねてみる事にした。
どうやらAnvilでは賑わいを見せてる酒場『The Count's Arms』にいるそうだ。

 

 

 



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「邸宅はまだ売りに出してるよ、興味あるかい?」

彼がその物件の持ち主であるVelwyn Benirus。

で、気になるお値段ですが・・・5,000ゴールド!何とか手持ちで足りる!
か、買います買います!


「素晴らしい! ほら、これが玄関の鍵と家の権利書だ。
新居を満喫してくれる事を願ってるぜ!」

代金と引き換えに鍵と権利書を受け取った。
Velwynは何故か取引を終えるとそそくさとその場から立ち去った。



・・・まあいいや、とにかくこれであの邸宅は私の物。
早速中を見てみよう。



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外見もちょっと痛んでる感じではあったが、中も結構荒れている。
どうやら長期間使われないまま放置されていた様だ。

1階を一通り見回り、続いて2階へ。



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階段を上がってすぐの部屋がベッドルーム。
お~立派なベッド!
今まで使ってきた寝具は万年床のせんべい布団やら良いとこ宿屋のベッドくらいだった事から思えば、これはこの上ない贅沢!

早速嬉しがって寝転がってみた。



「ん・・・?」

ベッドに寝転がって気が緩んだのか、少々眠ってしまったようだ。
何大きな物音にはっとして目が覚めた。

「痛っ!!」

その次の瞬間体に激痛が走った。
状況が全く把握できなかったが飛び起きた。



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ゴーストだ! なぜ!? しかも複数!
これはたまったもんじゃない、囲まれたらあっという間にやられてしまう。
とにかく奥の通路へ駆け込み、ホネ君を召喚して体力を回復させる時間を稼ぐ。

こいつら・・・地味に強い。
ほっとけばすぐ回復するし、何より霊体なので普通の物理攻撃が通用しない。
かといって銀製武器を手にどんどん直接攻撃しに行こうものなら、広い部屋だとすぐに囲まれてひとたまりもない。

私の取った戦術は已む無く地味な持久戦。
幸い召喚ペット達は魔力の尽きない限りは何度でも召喚出来るし、後衛で控えている限りは魔力の回復も割と早い。
ホネ君とScampを盾に、魔力に余裕があれば火炎を浴びせて何とか幽霊を撃退した。



一息ついた後、「大きな物音」の元を探りに階下へ降りてみた。
まだ幽霊達の気配が全くなくなった訳じゃない・・・慎重に慎重に。


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リビングで、食器棚の上から何かの拍子で床に落ちたと思われる壷を見つけた・・・中に何か入っている。

「!」

そこには人間の手と思われる骨と、一枚のメモ書きだった。


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私は紙切れを拾い上げて読んでみた。



・・・内容は日記。 恐らく過去のこの屋敷の持ち主のものだ。
そこにはこの日記の著者が死霊術(ネクロマンサー)に目覚め、堕ちていく生々しい姿と、それを忌み嫌う隣人への激しい怨嗟の念、そして・・・いずれ街中を血で塗りつくす様な惨劇の計画について書かれてあった。
それと、この屋敷のどこかに、Benirus・・・恐らくこの日記の著者本人と、その血族のみが開く事が出来るという『秘密の部屋』について書かれてあった。

秘密の部屋・・・か。
ベッドに入る前に1階2階については一通り覗いたはず・・・そういえば2階への階段の脇に地下室へと続いてそうなドアがあったな。



地下へ伸びる通路は思いのほか大規模だった。
一般家庭の倉庫として使うには余りにも大袈裟な造り。
その最も奥の部屋には

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奇妙な紋様の描かれた壁を発見した。
音から察するに中は中空・・・この壁の向こうにも部屋がある様だ。
日記の主Benirusの書いてあった『秘密の部屋』に違いない・・・Benirusといえば、この家を私に売った男の名はVelwyn Benirus。


まずはVelwynに話を聞かせてもらうとしよう。



私は屋敷を出ると早速奴がたむろしてた酒場『The Count's Arms』に向かったのだが、Velwynの奴は既に姿を消していた。
店主の話によると「帝都に向かう」と言っていたそうだ。

・・・この慌てっぷり、さては奴はあの屋敷の秘密を知っていたな?
知ってて黙っていたか・・・見つけ出した日にはただじゃ置かないぞ!





帝都に着き、例の『帝都商工会の一件』で知り合う事となったThoronirの店を訪ねてみた。
日用品の買い物ついでにVelwyn Benirusについてちらっと尋ねてみたところ、「エルフ庭園地区にいると思う」との情報を得ることが出来た。




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エルフ庭園地区は『The King and Queen Tavern』と言う酒場にやって来た。
Velwynのやつ、アル中という感じではなかったが、結構な遊び人の様でいつも酒場に入り浸ってるようだ。」



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酒場のドアを開けると奴はすぐ目の前に奴がいた。
私の顔に気付いた様子で、そそくさと店を出ようとしたところをとっ捕まえた。

「帝都のこんなところであんたに会えるなんて驚いた。」

等としゃあしゃあと抜かした。
こっちはあんたに言いたい事と聞きたい事が山ほどあるんでわざわざ追い掛けて来たって言うのに。

私はあの『お化け屋敷』の事をVelwynに聞いてみた。

「俺に責任があるって言うのかい?・・・まあその通りだとは思うよ。
あの屋敷は俺の爺さんのLorgren Benirusのものだったんだから。」

こいつ開き直りやがった。

「なぜ安く売ったかっていうとだな・・・あの場所が呪われてるって知ってたからさ。
君に忠告しとくべきだったかも知れないけど、何しろAnvilを出なきゃならなかったんだ。」

やっぱり知ってたのか。

「うちの家族がね、遣り残した事を全部済ませればAnvilから帝都に引っ越してもいいって言ってたんだ。
あの屋敷はそのやり残しの一つさ。」

この野郎根性腐ってる・・・話を聞いてれば余計にムカ付いてきた。
結局自分の面倒を、何も知らない他人の私に押し付けて自分は知らぬ顔で都会で遊び呆けたかったってか。

「君があの呪いを解いて、全部終わらせてくれるって見込んだんだと思ってよ。」

ああ、解いてやろうじゃないか、その呪いって奴を。



Velwynは自分の祖父、Lorgren Benirusについても語り出した。

「祖父はおかしな老人だった。 いつも魔法で遊んだり実験したりしていた。
だけど人に迷惑を掛けるような事はほとんどなかった・・・邪悪な魔術である死霊術の大冊を見つけてしまった運命の日までは。

彼は「死霊術を使って寿命を延ばす」事に取り付かれてしまったんだ。
その本に記されていた邪悪な術に従って、彼は教会の地下に安置されてる亡くなったばかりの人の遺体を掘り起こしてしまった。

それが発覚してから、魔術師ギルドはその処分をどうするかを決める為の会議をすぐに開いた。 決議はあっという間だったそうだ。

Carahilという名の若い指導者の指揮の下、魔術師ギルドはあの屋敷に踏み込んで祖父を葬り去ってしまった・・・だけどその混乱の中、彼の死体は見つからなかった。

・・・そういうわけで、Anvilの人々はあの屋敷は呪われてるに違いない、と結論付けてしまったんだ。
それからというもの、あの屋敷に足を踏み入れたのは君が初めてだ。」

はいはい、そうですか。
・・・まあ確かにあの物件にしては破格値だと思ったし、ろくに下調べもせずに買うといった私にも落ち度はあるんだろうけど。

あの屋敷の元の持ち主がどうであろうと、権利書を手にしている以上今は私が家主、自由に使えるのは私一人であるべき!
あの屋敷を呪ってるのはその爺さんに違いないんだから、私が追い出してやる!

でもその真相を知るには例の『秘密の部屋』を調べるしかない。
あんたがいないとその部屋には入れないそうだ、と教えてやったところ、本人はそれも知っていた。

「あんな状態の家を売ってしまったことには些か罪悪感を感じなくもない。
Anvilの酒場『Count's Arms』で会おう!」

と言い残し、Velwynは店を出て行った。



・・・ようし、私も我が家を浄化するためにAnvilへ戻るとしよう。



Where Spilits Have Lease (前編) -終わり-