一介の野良冒険者の収入なんてたかが知れている。
なにしろ、街近辺の洞穴やうち捨てられた砦の跡地などに住み着いた盗賊やゴブリン達を退治しては奴等の使っていた武器防具を引っ剥がしては街の道具屋で捨て値で売る位がせいぜいだからだ。
もう少し安定して収入を得たいなら、何らかのギルドに加わって定期的に報酬を貰える仕事をこなす事が手っ取り早いのだろう。
しかしそういう苦労を経て必死の思いで稼ぎ出した小銭も、武器防具の修理代や宿賃等にいとも簡単に消えていく。
・・・野宿続きのこのままじゃ、監獄の中の生活と早々変わらないんじゃないか?
薄暗い牢屋の中から全然出られないよりは遥かにマシではあると思うけど・・・。
それに暴漢や怪物達を相手にする時の立ち振る舞いについても、今の自分に全然満足出来ていない。
自身はプレート鎧を着込んでぐいぐい前線へ出る様なスタイルで闘える様になりたい、という願いを持っているんだけど、決してフィジカル的には恵まれていないBreton人。
元々Breton人は頭脳勝負な人種なので基本的に魔術師志望者が多いのだが、裏を返せば筋力不足という欠点を埋められれば強力魔法でゴリゴリ押せるし自己治癒スペルなんかも惜しみなく使える様な前衛を努められるんじゃないかと思ったり・・・まあ失敗すれば取り立てて何のとりえもない凡人にしか成り得ない可能性も否定出来ないんだけど(汗
でも強力な攻撃魔法や召還魔法を使いこなせるパラディンって燃える(注: 否、萌える)ので・・・夢はデッカイ方が良いよねって事で(某別世界じゃなかなか望むべくもないスタイルだしね(苦笑)。
ちょっと前置きが長くなってしまったが、そんなこんなでもうちょっと暮らし向きを良くしたい、という望みを胸に、私はChorrolの戦士ギルドに立ち寄ってみた。
玄関を入ったところで鉢合わせたNightElfの彼に「ChorrolのVilena
Donton、AnvilのAzzan、CheydinhalのBurz gro-K-hashのいずれかと話をしてみな。」と。
まあ普通Chorrolまで来てるんだからここのVilenaって人だわなぁ。
ところが上階に上がってみて驚いた。
そのVilena氏、戦士ギルドの幹部格っぽい人なんだけどなんと女性だった。
「戦士ギルドはいつでも新人を募集してるよ。 あんたに前科がなく、賞金首でもなきゃ使ってやるよ。」だと・・・。
まあ“えらいさん”ってのはこういう態度をとってくる人って多いよね。 ここは安定した生活と己の鍛錬の為にも我慢我慢・・・と。
入隊したい意思を伝えると、Vilena女史は続けた。
「分かったよ。 これであんたは戦士ギルドのAssociateという階級になった。 こなすべき仕事についてはAnvilのAzzanかCheydinhalのBurz
gro-K-hashのどちらかに尋ねてみて。」
ちょ、結局他所へたらい回しかよ! ・・・とここで愚痴を言ってても始まらないか。
一平卒が大きい顔出来るようになるには成り上がるしかないよね。
という経緯で数日後、私はChaydinhalの戦士ギルドまでやって来た。
もちろん戦士としての仕事を請ける為。
ここのBurz
gro-K-hashという人を尋ねるんだったな、名前からしてOrcっぽい。
ああ、やっぱりOrc。
会っていきなり「ギルドなんか豚車に乗って地獄へ行っちまえばいいんだよ。ギルドが俺に何をくれた?Keldの島か?Ohtimbarか?それにGuardianのランクか?へっ、役に立ちゃしねえ。」
とか言うし・・・それが初めて会う新人に言う言葉かねぇ。
等と考えているうちに、彼はおもむろに幾つかの武器を取り出して私に押し付け、こう言った。
「こいつをCheydinhalから見て北西にある、Desolate Mineにいる戦士ギルドの仲間に届けて欲しい。」
とほほ、戦士ギルドの最初の仕事は戦士らしい仕事でもなく、おつかいですか・・・。
とはいえ仕方ない、コレも仕事、仕事・・・。
翌朝、早速目的地のDesolate Mineへ向けて出発。
この鉱山、Cheydinhalからは距離もあまり離れていないのでそれ程時間も掛からないところらしいのだが、実際に鉱山へついてみて私はようやく事態を把握した。
私が鉱山の入り口へ到着した途端、人らしきものが岩陰の間からヒョォッと躍り出た。
若干不意を突かれた形にはなったのだが、よくよく見るとそれは1匹のゴブリンだった。 まあゴブリンくらいならもう何の問題ない。
鉱山に入り、注意深く奥へ進んでいくと、ゴブリン独特の匂いはますます強くなっていく。
どうやらゴブリンがこの鉱山を占拠しているようだ・・・しかし戦士ギルドで指定された武器の配達先は間違いなくここだ。
・・・って事は・・・。
等と私が思いを巡らせているところへ、鉱山内で“同胞”と思われる人影を発見。
ちょっと話を伺ってみると、案の定ここに巣食ったゴブリン達を撃退する為に派遣されてきた戦士ギルドのメンバーらしい。
話し口調に苛立ちを散りばめている・・・どうやら戦士ギルドからの補給の到着をひたすら待ち続け、かなり苛立っている様だ。
私は彼らに持って来た武器を一つ一つ手渡すと、彼らは喜び勇んで鉱山の奥へと駆け出した。
ギルドのメンバーたちの怒号とゴブリン達の金切り声が鉱山中に響き渡っている。
同胞が戦地へ赴いた以上、ここは私も遅れを取る訳にはいかない、という事で彼らに加勢する事にした。
ゴブリンとの戦闘はそう長く続かなかった。
戦士ギルドの手練が3人+私という戦力ならゴブリン相手なら楽勝なのは予測できた事だけど、さすがに一人で相手するのとは掃討する勢いが違うな・・・等と一人呟きつつ、互いに労いの言葉を掛け合うメンバー達。
「さあ、あんたもgro-Khashの所へ戻って、自分の報酬を受け取りなよ。」
一行のリーダーと思しき戦士の一人、Riennaは初めて会った時とは打って変わって気さくな口調でそう言った。
早速Cheydinhalへ帰還、その足で戦士ギルドに顔を出す。
ここのギルド・リーダーのBurzは
「無事に武器を届け、死傷者なしで鉱山を掃除したのか。 上出来だ。」
それ程難しい仕事ではなかったけど、やっぱり褒められると悪い気はしない。
少しイロを付けておく、と彼から報酬を受け取り、戦士ギルドでの階級もAssociate(新人)からApprentice(見習い)に昇進してくれるという。
ようやく本来の意味の入隊を認められた、と言うところだろうか。
そして今は、もうここには他の仕事も特にないらしく、Anvilの戦士ギルドのリーダーであるAzzanを尋ねる様に言われた。
次はAnvilか・・・ここから比べると南西の果ての街、バカンスには持って来いのロケーションだと聞いている。
次の目的地が決まって身の振り方が定まった気持ちの余裕もあって少しBurzと雑談を交わしたのだが、彼は最近のこの街の“異常”っぷりを憂いていた。
・・・Anvilへ経つ前にするべき事がありそうな予感。
The Deslolate Mine -終わり-
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