Canvas the Castle (後編)

この時点で伯爵夫人が名指しで情報を伺う様に言われた人間全ての話を聞くことが出来た様なので、一度情報を整理しようと思う。



事件当日の夜のアリバイがないのは、伯爵夫人の良き助言者であり、魔術師のChanel。
もう一人はポーターのOrgnolf。

Orgnolfはアルコール依存症らしく、ポーターの賃金だけでは酒代としては不足で、周りの人間に無心していた、という証言もあった事から、彼には金銭的問題からの動機はあるといえるだろう。

一方Chanelに関してはこれと言った動機に関する話は聞く事が出来叶った。



で、具体的な事件当夜のアリバイについては、Chanelは「中庭で星を見、その後食堂で星図を読んでいた。」と言った。
だがOrgnolf、Orokが共に、「その夜は雨だった」と言った。
という事は「中庭にいた」というChanelの証言は嘘、という事になる。

Orgnolfについては、言い合いをしたという配達の少年を見つけることが出来れば、Orgnolfについてはその時間帯のアリバイは成立するんだが・・・それでもその後の『自室で過ごした』という事については証人がいない事になるのでこれは決定打にはならない。



という訳で動機の面ではOrgnolf、アリバイの面ではChanelがやや黒いと言ったところか。

・・・とここまで来て、さっきChanelと話した時に感じた違和感について思い当たる事が。
彼女が下した盗まれた絵の評価・・・評価そのものに対してではなく、評価の仕方について。

『彼の気高さと優しさをキャンバスの上に表現する事は至難の業なのです。』

あれは絵描きの観点からの言葉としか思えなかった・・・彼女、絵心があるのかも知れない。 まあ捜査についてはそれがそうだったとして、何ら影響しないだろうが。



では続いて現場検証を行おう。




 

Chanelが長時間過ごし、Orgnolfが隠れて酒を呑んでいたというChorrol城、西の塔へ来てみた。
Orgnolfが酒を呑んでいたという上階は物置として使われているらしく、特に有用な証拠となりそうな物は見つける事が出来なかった。

続いて下階へ行ってみたところ、非常に興味深いものを発見した。

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結構な大作の描き掛けの絵。
しかも自室でなく、この様な奥まった場所で描いているとは、普通では少々考えにくい。
ともかく、この城には絵を描くものがいる事は間違いない。

絵描きと言えば・・・。



続いて行ってみたのが城内の食堂・・・確か事件当夜はChanelがここで「星図を読みつつワインを呑んだ」と言っていた。

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ふと足元を見ると、カーペットに絵の具の染みと足跡を発見した。
何者かがここで絵の具を落とした・・・という事になるだろう。





Private Quaters内、Chanelの部屋。

証言の嘘・・・西の塔の描き掛けの絵画・・・絵の知識・・・食堂・・・絵の具の染み・・・断片的な情報しか得られていないが、状況証拠としてはどう見てもOrgnolfよりもChanelを指している様に感じられて仕方なかった。

私は彼女の部屋でそれとなく室内を物色を見回したところ、

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これが目に止まった。
開けてみると、その中には絵筆やパレット、絵筆立て等、絵を書く道具でいっぱいだった。

これで間違いない、あの西の塔で見つけた描き掛けの絵の作者はChanelだ。
そして恐らく、伯爵夫人が盗まれたという、Chorrol伯爵の絵の作者も彼女が・・・。

しかし彼女はその伯爵像の出来には不満があり、それで隠した・・・?

確固たる確信は得られなかったが、各人の証言と状況証拠からはChanel以外思い当たらなかった。



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私は思い切って彼女に「あなたね?」と問うてみた。

「・・・私は自分の罪を告白します。 でもこれだけは理解してください。
私の心にはValga伯爵への止み難い愛があるだけなのです。

あの肖像を書いたのは私なのです。
伯爵が亡くなられた後、伯爵夫人は絵を片時も離そうとしませんでした。
それで私は次第に嫉妬するようになったのです。
絵はどうしても返してもらわなければいけなかったのです。
私はそれを盗み、私の部屋に掛けてあった絵の後ろへ隠しておく事にしました。

私は自らの罪を恥じています・・・この後直面しなければいけない運命には覚悟が出来ています。



最後にChanelは、

・・・絵の道具を城のあちこちに置き忘れたのは私の不注意でした、私の物だと突き止めるのは易しかったでしょう?」

と苦笑した。

私は伯爵夫人に報告に行かねばならない・・・。



 

結局、私は伯爵夫人に真実を告げる事を躊躇ってしまったのだった。
今回の盗難の目的が金目当て等の類なら何の躊躇もなく告発しただろう・・・だが、今回の事件に関しては犯人だったChanelに悪意を感じる事が出来なかった。

私は「不正を取り締まる者」としては失格者だ。
先の戦士ギルドの怠け者の一件でも、Oreynにはっきりとした事を報告するのを躊躇ってしまった。
私は変なところで情に絆される性分らしい。

「犯人は城内の者ではない。」と結論付けた私の報告を受け、Chorrolの伯爵夫人は大層がっかりした様子を目の当たりにするのはもちろん心苦しかった。
だが真実を知らせてしまう事で間違いなくChanelはChorrol城にはいられなくなるだろう。




 

後日。

別件で舞い戻っていたChorrolの街でChanelに会った折、「真実を伯爵夫人に明かさないでいてくれたお礼」と1枚の絵を貰ったのだった。

その絵は自宅の寝室のベッドのすぐ脇に展示してある。
帰宅して床に付く折にこの絵を目にする度にその絵の出来ばえに感心すると同時に、ChanelとChorrol伯爵夫人の胸の内を思い、そして自分の正義感の甘さを噛み締めてはこみ上げて来る、何とも複雑な心境を己の戒めとする事になるのだった。

 

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Canvas the Castle (後編) -終わり-