Order of the Virtuous Blood (後編)
帝都の商業地区。
ちょうど例の商工会での揉め事の当事者の一人だったThoronirの店の真向かいに書店『First Edition』がある。
この国にはここの他に、Chorrol、Cheydinhal、Leyawiinにも書店があるとの事だが、その中でもここの店主Phintiasは品揃えの豊富さが自慢の様だ。
Rolandは、彼はSeridurについて何か知っているかも知れない、と言っていた。
他愛ない雑談の後にそれとなくSeridurの事を尋ねてみたが、「客のプライベートな事情については話せない」と取り付く島もない。
・・・ここは一つ、袖の下作戦・・・『地獄の沙汰も金次第』・・・という言葉が頭をよぎったが。
するととたんにPhintiasの口は軽やかになった。 良く効く薬だ事。
「Seridur? 時々来るね。 いつもカバンに大量の旅行食を持ってやってくるなぁ。
たまに少しだけ本をお買い上げくださるよ。 一度尋ねてみた事があるんだが、彼は出張で他の街へ行くんだと言っていたよ。
一度Memorial Caveの事を誰かと話していたのを聞いた覚えがあるなぁ・・・私は直接聞いた事はないんだが。」
Memorial Cave?
「そうだ。 聞いた話だと、そこは過去の戦で戦死した多くの英雄達が埋葬されてる場所だそうだ。
ただの想像なんだが、彼にはそこに埋葬された身内の人がいるとかじゃないだろうか。 普通なら誰もそんなところへ出かけたりしないよ、危険だからね。」
・・・英雄の墓・・・か。 吸血鬼が好みそうなところっぽいな。
Phintiasは「Seridurは強情で、危険を冒してでも人としての誠実さを取ったんだ」とか言ってたがもうそんな事はどうでも良かった・・・薬、効き過ぎ。
身内が葬られているとかではないだろう・・・そこは言うまでもなく吸血鬼の巣窟と化しているに違いない。
その日の夕刻、私はPhintiasの言っていたMemorial Caveにやって来た。
一歩洞窟に踏み込んでみると、そこは死臭でいっぱいだった。 決して古いものばかりじゃない、“新鮮”な死体が少なからず存在するに違いない。
・・・間違いない、ここは既に吸血鬼のねぐらなのだ。
案の定奥へ進むと、吸血鬼、骨、ゾンビ、ゴーストの類が数多く徘徊していた。 洞窟自体もかなりの広さだ。
最初に出会ったヴァンパイアと切り合った際、何かの病を伝染された様だ・・・十中八九『吸血鬼病』だろう。
3~4日間の潜伏期間を経てヴァンパイアと化してしまう病原体。
そう・・・ヴァンパイアはそのほとんどが元々普通の人で、血を吸われる事により病気に感染、発病すれば吸血鬼に、そして真祖の忠実なる下僕となるのだ。
私もここを出たらすぐに教会で病気を祓ってもらうとしよう。
注意深く奥へ奥へと歩を進める。
洞窟の最深部と思しき広間に『奴』はいた。
「ここにいるのを見られて私が慌てるとでも思ったかね? 私がお前をここに仕向けたのだよ。
お前を消すのにこれ以上都合の良い場所はないからな。
食い散らかした死体を消してしまえばもう証拠は残らない・・・Rolandのときは杜撰だったが。 同じ失敗は繰り返さんようにせんとな。
お前を始末したらRolandを探してこのゲームを終わらせるとしよう。 お前を雇うのは誤りだと分かっていたが、体面を保つには仕方なかったのだ。
あの忌々しい『Order of the Virtuous Blood(高潔なる血の騎士団)』の者どもも、我々がお前を陥れると警告していたな。
Rolandの件を終わらせたら、次はOrderのメンバーであるGilenとGrey-Throatも消さなければいけないだろう。
・・・さあ、もう十分だろう? そろそろ食事の時間にしようではないか!」
ふん、悪者の決まり文句か。
言いたい事は一頻り言い終えたらしく、奴は“本来”の姿を現し、獲物を携えて飛び掛ってきた。
言うだけの事はそれなりにあるらしく、数種の魔法を駆使しつつ巧みに剣を扱う。
・・・だが今回ばかりは相手が悪かった様だな。
ホネ君を呼んで我が盾と成し、自分の防御力を高め、撃てるだけの火力を注ぎ込んだ後、渾身の力を込めて斬りかかると、奴は思いの外あっけなく崩れ落ちた。
・・・終わった。 さあ、Rolandにこの事を知らせてあげなくては。
「意気揚々として戻って来たね。」
何も言う前から表情に出してしまっていたのだろうか。
彼にSeridurを討ち取った事を伝えた。
「彼が死んだ!? 良かった!
俺はもうここから離れられなくなるんじゃないか、ひょっとすると奴が私を襲いに来るんじゃないかと心配だったんだ。
ようやく家に帰れるよ。」
彼も彼なりに、ここで過ごした時間でこれからどうするのかを思案し続けたらしく、『Order of the Virtuous Blood(高潔なる血の騎士団)』に参加する意思を私に明かした。
掛替えのない恋人をヴァンパイアに奪われたんだ、それもいいんじゃないかと思う。
「帝都のSeridurの地下室・・・Orderの本拠地でまた会おう。」
最後に彼はそう言った。
私は次に帝都に戻った時には必ず顔を出す事を約束し、彼と別れた。
数日後、私は旅での消耗品の買い足しの為に帝都を訪れた。
そしてRolandとの約束の通り、『元』Seridurの屋敷を訪れた。
「またお会い出来て嬉しく思うよ。
俺は他のOrderのメンバー達とたくさん語り合った。 そして彼らもOrderに骨を埋めることを同意してくれた。
そしてあなたに名誉会員となって頂こうと思う。 あなたが我々の助力を必要とするなら喜んで提供しよう。」
そう話し、今回のお礼に、と指輪をくれた。
こうして「帝都の吸血鬼騒ぎ」の幕は下りた。
あの卑劣な生き物はこの空の下のどこかに、今も闇にまぎれて必ず潜んでいる事だろう。
しかしまたそれに対抗するRoland達、『Order of the Virtuous Blood(高潔なる血の騎士団)』も存在するのだ。
・・・あんたも頑張りなよ、Roland。
私は燦々と降り注ぐ日の光を浴び、Orderの本拠地を後にした。
Order of the Virtuous Blood -終わり-
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